子どもが食事中に急に嫌そうな顔をする。音のことで頻繁に不満を口にする。でも何が嫌なのか、うまく説明できない。
「神経質なだけ?」「わがまま?」と思いながらも、どこか引っかかりを感じている保護者の方に読んでほしい記事です。
ミソフォニアは、特定の音に対して強い反応が起きる状態で、多くの場合、学齢期に始まります。子ども自身がそれをミソフォニアと認識できるようになるまでには時間がかかる。
その間、周囲の大人の理解があるかどうかが、その後の経過に大きく影響します。
ミソフォニアは学齢期に始まる
研究によれば、ミソフォニアの発症は8〜14歳ごろが典型的とされています[1]。つまり、小学校中学年から中学生にかけての時期に症状が現れ始め、そのまま成人以降も続いていくことが多い。
家庭、もしくは学校という環境の中で症状が始まり、学校という環境の中で毎日トリガーにさらされ続ける——これがミソフォニアのある子どもが置かれた状況です。
当初、子ども自身は何が起きているのかわからないまま、ストレスだけが積み重なっていきます。気づく時期にはすでに、相当な負荷を抱えている可能性が高い。しかしその負荷が音への反応と関係しているとは、本人も周囲も気づいていないことがほとんどです。
保護者が気づくきっかけ
「うちの子がミソフォニアかもしれない」と保護者が気づくのは、多くの場合次のような状況です。
音に関する不満を頻繁に口にするようになった。しかしその訴え方が、単なる「うるさい」とは少し違う感じがする。食事中に何かに反応して急に表情が変わる。でも何が嫌なのか、子ども本人もうまく言葉にできない。
もう一つ、見落とされやすいきっかけがあります。保護者自身が、子どもと似たような経験を持っているケースです。「自分も子どもの頃、特定の音が極端に気になっていた」という感覚を持つ保護者は少なくありません。体感として、保護者のどちらかに似た傾向がある割合は相当数にのぼります。
子どもの様子を見て引っかかりを感じたとき、自分自身の子ども時代を振り返ってみてください。配偶者と「自分たちが子どもの頃どんな様子だったか」を話したことがないのであれば、その話をしてみる意味があります。子どものミソフォニアへの気づきは、保護者自身の気質・性質を改めて見直すきっかけになることがあります。
私自身の話をすると、父は20歳前後からミソフォニアの反応があった可能性が高いと考えています。母については、昔からミソフォニアの反応があったという証拠はありませんでした。
ところが末期がんでホスピスに入院していた病床で、父が持ち込んだ買い物袋のガサガサという音に強く不満を示したのを目の当たりにしました。その場面を見て、「母もミソフォニアだったのか」と内心非常に衝撃を受けました。これは本人も気づいていなかった可能性が高い事例です。
これは私の一例に過ぎませんが、親自身がミソフォニアであることに気づいていないまま、子どものミソフォニアに向き合おうとしているケースは、おそらく珍しくありません。
子ども自身が気づくまで
子どもが「これはミソフォニアだ」と自分で気づくには、まず自分で情報にアクセスできる年齢になる必要があります。検索ができるようになってから、あるいはAIに相談して気づくケースも今後増えていくと考えられ、以前より低年齢で気づく流れになっていくと思います。
それまでの間、子どもが気づくとすれば、自分の感覚を誰かに伝えても共感が返ってこないことへの違和感、あるいは「その気にし方はおかしい」と誰かから指摘されて初めて自覚する、というパターンが多いと思います。
いずれにしても、気づく前にすでに相当なストレスを抱えていることが多い。そして気づいた後も、それを周囲にどう伝えるかという問題が残ります。
「学校」という環境の問題
ミソフォニアと学校という環境の相性は、構造的に悪いと言わざるを得ません。
授業中は同じ教室に複数の人間が長時間集まり、鉛筆の音・咳・呼吸音・足音が不定期に、しかも高頻度で発生します。給食の時間は、全員が同じ空間で食事をします。部活動・集団行動の機会も多い。いずれも「その場を離れる」という選択肢が基本的に存在しない環境です。
環境の固定化がミソフォニアのリスクを高めます。毎日同じ教室で、同じクラスメートと、同じ時間割で過ごす。その繰り返しの中でトリガーへの反応が積み重なっていきます。
海外では座席の配慮・別室受験・退室許可といった対応が取られる事例があります。日本でも同様の配慮が実現しているケースがあることは把握しています。ただ、これはあくまでその場しのぎの対処です。学校での配慮が続いたとしても、卒業後・就職後に同じ配慮が保証されるわけではありません。
ミソフォニアの問題は配慮によって解決するものではなく、当事者によって反応の種類も負担の大きさも違うため、要求できる配慮には限度があります。
現場の側から見れば、すべての個別ニーズに対応しようとすると対応の限界を超えてしまう。ミソフォニアのある子どもが守られる環境が自動的に整うわけではない、というのが現実です。
叱ることの弊害
保護者が子どものミソフォニアに気づかないまま、「音に対してわがままを言っている」「神経質すぎる」と判断して、しつけの一環として叱りつけるケースがあります。
これは状況を悪化させます。
子どもは自分の反応がなぜ起きるのか説明できないまま、「おかしい」と言われ続けます。ミソフォニアの発覚が遅れるだけでなく、重症度も上がりやすい。自分の感覚を否定され続けることが、長期にわたって積み重なっていくからです。
子どもが音への不満を訴えるとき、まず「この子は何かを感じている」という事実を受け取ることが先です。それが正確に何なのかはあとで整理できます。最初の段階で「わがまま」と閉じてしまうことのコストは、後から見ると大きい。
保護者にできること
学校への配慮申請は、検討する価値があります。ただし前述の通り、それは一時的な対処であることを前提に考えてください。
それより先にできることとして、家庭内の環境を見直すことがあります。どんな場面でどんな音に子どもが反応しているのかを観察し、家庭の中でできる範囲の調整を考える。具体的な環境調整の方法については書籍『ミソフォニアの静めかた』の中で紹介しています。
もう一つ重要なのは、先述した「保護者自身の棚卸し」です。子どもの反応を理解しようとするとき、自分自身や配偶者の気質・傾向を振り返ることが助けになります。
ミソフォニアには遺伝的な傾向があると、複数の研究で示唆されているので、保護者のどちらかが似た経験を持っている場合、子どもの状態を理解するための手がかりになります。
このテーマと長く付き合う覚悟
ミソフォニアは、短期間で解決する問題ではありません。
学校生活を通じて続き、社会に出てからも形を変えて続きます。対処の方法を少しずつ身につけ、環境との折り合いを探していく、長いプロセスです。
保護者として関わるということは、そのプロセスに付き合うということです。「原因がわかったから解決」ではなく、「これからどう向き合うか」を一緒に考え続ける関係が必要になります。
決して軽い問題ではありません。ただ、何もできないわけでもありません。
まず子どもの感覚を否定しないこと、そして自分自身のことも含めてミソフォニアというテーマを理解しようとすること——そこから始められます。
研究が示していること
2025年に発表された研究では、7〜18歳のミソフォニアのある子ども90人を対象に調査が行われました[2]。ミソフォニアのある子どもは不安・抑うつ症状が有意に高く、強迫性障害(OCD)や片頭痛・身体症状も多い傾向が確認されています。一方でADHD・ASD・読字障害などとの有意な関連はなかったとされています。
また年齢による違いも示されています。低年齢(7〜12歳)では攻撃行動が反応として多く、青年期(13〜18歳)では自傷行為が報告されるケースが増えます。反応が内側に向かっていく傾向です。
同年に発表された質的研究では、子どもと保護者の双方が「ミソフォニアの影響が学業・家族生活に与える深刻さが著しく過小評価されている」と訴えていることが示されました[4]。
ミソフォニアの認知度が低いため、学校への配慮申請をためらっている・申し出にくいと感じている保護者・子どもが多数いることも報告されています。
参考文献
[1] Sublime Speech (2015). Misophonia: What SLPs & Educators Need to Know. http://sublimespeech.com/2015/08/misophonia-what-slps-educators-need-to-know.html
[2] Siepsiak, M., et al. (2025). Misophonia in Children and Adolescents: Age Differences, Risk Factors, Psychiatric and Psychological Correlates. Child Psychiatry & Human Development, 56, 758–771. https://doi.org/10.1007/s10578-023-01593-y
[3] Porcaro, C., et al. (2019). Misophonia in an academic setting. Journal of Postsecondary Education and Disability.
[4] Abraham, K., et al. (2025). What Do Children and Parents With Misophonia Really Think? Psychology Today. https://www.psychologytoday.com/us/blog/noises-off/202507/what-do-children-and-parents-with-misophonia-really-think
関連記事
もう少し深く知りたい方へ
無料メルマガ「音と反応のはなし」
反応の仕組みや、日常の中での向き合い方を継続的にお届けしています。登録後すぐに、書籍『ミソフォニアの静めかた』の序章〜第3章(PDF)をプレゼントします。 → メルマガに登録する(無料)
書籍『ミソフォニアの静めかた』
反応の仕組みから日常での関わり方まで、ミソフォニア専門書籍の著者・Hazime(角谷滉一)がデジタル書籍(PDF)でまとめています。家庭内の環境調整についても詳しく取り上げています。 → 書籍の詳細を見る

コメント